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ビズブロ界のキーマンに聞く!:第2回 P&G「I ラブ困ったさんコンテスト」

コスト削減と口コミの可能性が導入の決め手に

困ったさんトップページ

――まず、「I ♥(ラブ) 困ったさんコンテスト」(以下、「困ったさん」ブログ)は、ブログで展開した消費者参加型キャンペーンとして注目されました。そのアイデアの原点を教えてください。

それはいろんな人に聞かれるんですが、基本的にブログありきの企画ではなかったんですよ。と言うと、だいたいIT畑の人に驚かれるんですが(苦笑)、そもそも、P&Gさんの洗濯用洗剤「アリエール」の新キャンペーンに当たって、まず"困ったさん"というコンセプトがあり、早い段階でネプチューンの原田泰造さんが出ているCMの原型ができ上がっていたんです。ただ、どこの家にもいる「わが家の困ったさん」を漠然と表現するのは難しくて、やはり一般の人を絡めないとリアリティがない。そこで、消費者参加型のキャンペーンを提案していくことになりました。

しかし、洗濯物に関する作文コンテストとか川柳の応募企画は特に目新しくありません。もっと違ったやり方で消費者を巻き込んでキャンペーンをやれないか? ということを考えて思いついたのが、面白い応募作品はその都度バンバン発表していくスタイルでした。従来のコンテストだと、たとえば1万通応募があっても、世に発表されるのは大賞に選ばれた5作品とか、すごく限定されますよね。2ヵ月の募集期間中、その都度面白いエピソードを発表しながら募集をかける方法は新しいんじゃないか、というわけです。さらに、「わが家の困ったさん」というメッセージを具現化するためにも、たくさんのエピソードを発表するほうがリアリティが増すだろうという判断もありました。

――それを実現する手段としてブログを利用した、と?

ビーコンコミュニケーションズ株式会社 渡辺氏
ビーコンコミュニケーションズ株式会社
アソシエイトディレクター 渡辺英輝さん

そうです。ブログを導入した第1の理由は、まずコスト面ですね。通常のウェブサイトで、1日3~4通もの投稿を更新すると、莫大な費用と手間がかかります。しかし、MOVABLE TYPEならその問題をクリアできる。逆に言うと、このキャンペーンは、CMS(※Content Management System)なしには成立しない企画だと思います。

2つ目の理由は、トラックバックが"口コミ発生ツール"となることを期待した点ですね。プレゼンでは、私が個人で運営しているブログで起こった口コミの事例を紹介しました。日本ではブログ=個人日記としての使われ方が一般的ですが、僕はそもそもブログをマーケティングに使えないか、そういう視点でずっとアイデアを温めていたんです。ブログ導入にGOサインを出してくれたP&Gさんの先見性には非常に感謝しています。

※CMS(コンテンツ・マネジメント・システム)
テキストやグラフィックなどを収集・登録して更新・配信するシステム、あるいはそれを実現するソフトウェアの総称。ブログはテキストデータとウェブサイトのテンプレート(デザイン)が分かれており、サイトの管理人はHTMLコードを意識することなくコンテンツを更新できる。

参加型コンテストの命運はブログの書き手次第 !?

――ただ、「アリエール」の主な購買層は主婦です。ブログユーザーと主婦層は直接結びつかないと思うのですが......。

困ったさん記事

それに関してはあまり気にしていません。というのも、そもそもトラックバックによる口コミは+α的な要素なんです。どちらかと言うとCMSのメリット、コストを抑えながら毎日手間隙をかけずに更新できることを重視していたので、必ずしも参加者がみんなブログユーザーであることを期待していたわけではありません。ブログが何かまったく知らなくても参加できるよう、面白いと思った記事に「投票」できるような仕組みもつくりましたし、トラックバックは特別な人だけやってもらえればいい、というスタンスです。

逆に、主婦のブロガーの少なさを逆手に取ると、そもそもそういう人ってオピニオンリーダーというか、周りの主婦に影響力のある人なんですね。数は少なくてもこのキャンペーンに反応してくれれば、インターネットじゃない部分で口コミが発生することが期待できるので、量より質を狙った面はあります。現に、有名ブログで取り上げてもらうと、瞬間的なアクセス数はガツンと上がりましたから。

――今回、コンテスト形式のブログを運営していくに当たって、重要なポイントは何でしたか?

いくつかあるんですが......まず見た目としては、トップページがブログらしくない点。実はでき上がりを見て非常に驚いたんです。これ、MOVABLE TYPEでできているのか?って(笑)。「困ったさん」ブログでは、洗練されたデザインよりもむしろ、一般ユーザーがブログであることを意識することなく参加できるような、なじみやすい雰囲気が優先されるべきでしょう。

作品の募集からその掲載までのワークフローの構築も重要です。日産の「TIIDA BLOG」のように、社内の人が自社製品に関する情報をこまめにアップする手法に対し、「困ったさん」ブログは一般からの投稿を順次ブログにアップするフローを組みました。いずれにしても、これをしっかりシステム化しないと、ブログのビジネス運営は難しいでしょう。あとは、不測の事態が起こっても臨機応変に対応できるチームワークですね。

個々のポジションの話になると、やはりブログの書き手(ライター)がもっとも重要なポイントだったのではないでしょうか。やっぱり、静止画とテキストがメインのブログは、何を差し置いてもコンテンツ命だと思うんですよ。そもそも、今回のコンテストでは、消費者からの応募は未知数の部分が大きくて、投稿作品をそっくりそのままブログにアップしても、その面白さは活かせなかったんじゃないかな、と。それをナビゲート役の夫婦(アリ夫とエル子)がかけ合い形式でボケたりツッコんだりすることで、コンテンツ=読み物として楽しめるようになったと思いますね。

"顔面パンチ"のマス広告と"ローキック"のブログ

アリエール

――そのコンテンツに対する読者からの反応を見て、このキャンペーンの成否を分析するといかがですか?

たぶん、いままで達成できなかったことができたと思います。というのも、そもそもマーケティングの基本は、対象となる商品なりサービスを買ってもらう、利用してもらうというのが究極のゴールなんです。そこに至るまでにはいろんなステップやルートがあって、必ずしも消費者が全員同じルートで購買に至るわけではありません。しかし、基本的にはまず第一に、その商品を知ってもらうことが重要になります。

そう考えると、まずはテレビに代表されるようなマス広告が、現時点では一番有効な方法です。ただ、次のステップとして、商品を深く理解してもらう過程があって、その結果、商品なりサービスの"ファン"になってもらうことが、購買にたどり着く最後の後押しになる。今回の「困ったさん」コンテストを実施したことで、それを実現させるための1つの方法としてブログが新たに加わった実感はありますね。

ただ、ブログはその効果が現れるまでに時間がかかるんですよ。テレビが顔面パンチだとしたら、ブログはローキックを地味に打ち続けてじわじわと追い込む、みたいな戦法かな(笑)。その代わり、ブログで消費者のハートをガッチリつかめば、その後も持続性はあると思います。広告予算にも関係してきますが、即効性のあるマス広告はいままでどおりやりつつ、ウェブではマスで伝えきれないものを小出しに伝えていく。双方をうまく組み合わせるのがベストじゃないでしょうか。

――ブログをビジネスに活用する際、注意すべき事柄は何でしょうか?

ビーコンコミュニケーションズ株式会社 渡辺氏

一番肌で感じたのは、ブログ以降のインターネットを深く理解しないと、思わぬ落とし穴があるということですね。ブログ登場以前のインターネットは、それぞれが島から情報を発信していたイメージですが、ブログによってそのつながりが地続きになった印象があります。これまでは、たとえば2ちゃんねるで名無しさんが批判しても、その場所でしかネガティブな評価は人目に触れなかった。しかし、ブログがこれだけ増えると、ありとあらゆる消費者からの反応がより表に出てくるので、ブログを利用することのリスクを知ることは重要だと思います。

今回のキャンペーンでは、「洗濯物には除菌が必要だよ」という啓蒙があったわけですが、消費者との間で良好なコミュニケーションを築けたこともあり、かなりの比率で読者に伝わったかな、と思います。その結果、アリエールのファンも獲得できたという手ごたえもあるので、「困ったさん」コンテストにブログを利用してよかったですね。やはりもっとも重要なのは、企業理念をきっちりもってブログを運営することではないでしょうか。

取材/文:大塚四郎(ノオト)


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